散るのを見ると、源氏は自分の涙と競うもののように思った。「相逢相失両如夢《あひあひあひうしなふふたつながらゆめのごとし》、為雨為雲今不知《あめとやなるくもとやなるいまはしらず》」と口ずさみながら頬杖《ほおづえ》をついた源氏を、女であれば先だって死んだ場合に魂は必ず離れて行くまいと好色な心に中将を思って、じっとながめながら近づいて来て一礼してすわった。源氏は打ち解けた姿でいたのであるが、客に敬意を表するために、直衣の紐《ひも》だけは掛けた。源氏のほうは中将よりも少し濃い鈍色にきれいな色の紅の単衣《ひとえ》を重ねていた。こうした喪服姿はきわめて艶《えん》である。中将も悲しい目つきで庭のほうをながめていた。
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雨となりしぐるる空の浮き雲をいづれの方と分《わ》きてながめん
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どこだかわからない。
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と独言《ひとりごと》のように言っているのに源氏は答えて、
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見し人の雨となりにし雲井さへいとど時雨《しぐれ》に掻《か》きくらす頃《ころ》
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というのに、故人を悲しむ心の深さが
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