日を取り越した法会《ほうえ》はもう済んだが、正しく四十九日まではこの家で暮らそうと源氏はしていた。過去に経験のない独《ひと》り棲《ず》みをする源氏に同情して、現在の三位《さんみ》中将は始終|訪《たず》ねて来て、世間話も多くこの人から源氏に伝わった。まじめな問題も、恋愛事件もある。滑稽《こっけい》な話題にはよく源典侍《げんてんじ》がなった。源氏は、
「かわいそうに、お祖母《ばあ》様を安っぽく言っちゃいけないね」
 と言いながらも、典侍のことは自身にもおかしくてならないふうであった。常陸《ひたち》の宮の春の月の暗かった夜の話も、そのほかの互いの情事の素破《すっぱ》抜きもした。長く語っているうちにそうした話は皆影をひそめてしまって、人生の寂しさを言う源氏は泣きなどもした。
 さっと通り雨がした後の物の身にしむ夕方に中将は鈍《にび》色の喪服の直衣《のうし》指貫《さしぬき》を今までのよりは淡《うす》い色のに着かえて、力強い若さにあふれた、公子らしい風采《ふうさい》で出て来た。源氏は西側の妻戸の前の高欄にからだを寄せて、霜枯れの庭をながめている時であった。荒い風が吹いて、時雨《しぐれ》もばらばらと
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