悲しんだ。こんな生霊の噂《うわさ》が伝わって行った時に院はどう思召《おぼしめ》すだろう。前皇太弟とは御同胞といっても取り分けお睦《むつ》まじかった、斎宮の将来のことも院へお頼みになって東宮はお薨《かく》れになったので、その時代には第二の父になってやろうという仰せがたびたびあって、そのまままた御所で後宮生活をするようにとまで仰せになった時も、あるまじいこととして自分は御辞退をした。それであるのに若い源氏と恋をして、しまいには悪名を取ることになるのかと御息所は重苦しい悩みを心にして健康もすぐれなかった。この人は昔から、教養があって見識の高い、趣味の洗練された貴婦人として、ずいぶん名高い人になっていたので、斎宮が野の宮へいよいよおはいりになると、そこを風流な遊び場として、殿上役人などの文学好きな青年などは、はるばる嵯峨《さが》へまで訪問に出かけるのをこのごろの仕事にしているという噂が源氏の耳にはいると、もっともなことであると思った。すぐれた芸術的な存在であることは否定できない人である。悲観してしまって伊勢《いせ》へでも行かれたらずいぶん寂しいことであろうと、さすがに源氏は思ったのである。
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