《とのいどころ》で寝ていた。驚かされた典侍は翌朝残っていた指貫《さしぬき》や帯などを持たせてよこした。

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「恨みても云《い》ひがひぞなき立ち重ね引きて帰りし波のなごりに
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 悲しんでおります。恋の楼閣のくずれるはずの物がくずれてしまいました」
 という手紙が添えてあった。面目なく思うのであろうと源氏はなおも不快に昨夜を思い出したが、気をもみ抜いていた女の様子にあわれんでやってよいところもあったので返事を書いた。

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荒《あれ》だちし波に心は騒がねどよせけん磯《いそ》をいかが恨みぬ
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 とだけである。帯は中将の物であった。自分のよりは少し色が濃いようであると、源氏が昨夜の直衣に合わせて見ている時に、直衣の袖《そで》がなくなっているのに気がついた。なんというはずかしいことだろう、女をあさる人になればこんなことが始終あるのであろうと源氏は反省した。頭中将の宿直所のほうから、
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何よりもまずこれをお綴《と》じつけになる必要があるでしょう。
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 と書いて
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