る不自然さがかえって源氏に真相を教える結果になった。自分と知ってわざとしていることであると思うと、どうでもなれという気になった。いよいよ頭中将であることがわかるとおかしくなって、抜いた太刀を持つ肱《ひじ》をとらえてぐっとつねると、中将は見顕《みあら》わされたことを残念に思いながらも笑ってしまった。
「本気なの、ひどい男だね。ちょっとこの直衣《のうし》を着るから」
 と源氏が言っても、中将は直衣を放してくれない。
「じゃ君にも脱がせるよ」
 と言って、中将の帯を引いて解いてから、直衣を脱がせようとすると、脱ぐまいと抵抗した。引き合っているうちに縫い目がほころんでしまった。

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「包むめる名や洩《も》り出《い》でん引きかはしかくほころぶる中の衣に
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 明るみへ出ては困るでしょう」
 と中将が言うと、

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隠れなきものと知る知る夏衣きたるをうすき心とぞ見る
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 と源氏も負けてはいないのである。双方ともだらしない姿になって行ってしまった。
 源氏は友人に威嚇《おど》されたことを残念に思いながら宿直所
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