る不自然さがかえって源氏に真相を教える結果になった。自分と知ってわざとしていることであると思うと、どうでもなれという気になった。いよいよ頭中将であることがわかるとおかしくなって、抜いた太刀を持つ肱《ひじ》をとらえてぐっとつねると、中将は見顕《みあら》わされたことを残念に思いながらも笑ってしまった。
「本気なの、ひどい男だね。ちょっとこの直衣《のうし》を着るから」
と源氏が言っても、中将は直衣を放してくれない。
「じゃ君にも脱がせるよ」
と言って、中将の帯を引いて解いてから、直衣を脱がせようとすると、脱ぐまいと抵抗した。引き合っているうちに縫い目がほころんでしまった。
[#ここから1字下げ]
「包むめる名や洩《も》り出《い》でん引きかはしかくほころぶる中の衣に
[#ここで字下げ終わり]
明るみへ出ては困るでしょう」
と中将が言うと、
[#ここから2字下げ]
隠れなきものと知る知る夏衣きたるをうすき心とぞ見る
[#ここで字下げ終わり]
と源氏も負けてはいないのである。双方ともだらしない姿になって行ってしまった。
源氏は友人に威嚇《おど》されたことを残念に思いながら宿直所
前へ
次へ
全38ページ中32ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング