ある。昔風の祖母の好みでまだ染めてなかった歯を黒くさせたことによって、美しい眉《まゆ》も引き立って見えた。自分のすることであるがなぜつまらぬいろいろな女を情人に持つのだろう、こんなに可憐《かれん》な人とばかりいないでと源氏は思いながらいつものように雛《ひな》遊びの仲間になった。紫の君は絵をかいて彩色したりもしていた。何をしても美しい性質がそれにあふれて見えるようである。源氏もいっしょに絵をかいた。髪の長い女をかいて、鼻に紅をつけて見た。絵でもそんなのは醜い。源氏はまた鏡に写る美しい自身の顔を見ながら、筆で鼻を赤く塗ってみると、どんな美貌《びぼう》にも赤い鼻の一つ混じっていることは見苦しく思われた。若紫が見て、おかしがって笑った。
「私がこんな不具者になったらどうだろう」
と言うと、
「いやでしょうね」
と言って、しみ込んでしまわないかと紫の君は心配していた。源氏は拭《ふ》く真似《まね》だけをして見せて、
「どうしても白くならない。ばかなことをしましたね。陛下はどうおっしゃるだろう」
まじめな顔をして言うと、かわいそうでならないように同情して、そばへ寄って硯《すずり》の水入れの水を
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