檀紙《だんし》にしませて、若紫が鼻の紅を拭く。
「平仲《へいちゅう》の話のように墨なんかをこの上に塗ってはいけませんよ。赤いほうはまだ我慢ができる」
こんなことをしてふざけている二人は若々しく美しい。
初春らしく霞《かすみ》を帯びた空の下に、いつ花を咲かせるのかとたよりなく思われる木の多い中に、梅だけが美しく花を持っていて特別なすぐれた木のように思われたが、緑の階隠《はしかく》しのそばの紅梅はことに早く咲く木であったから、枝がもう真赤《まっか》に見えた。
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くれなゐの花ぞあやなく疎《うと》まるる梅の立枝《たちえ》はなつかしけれど
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そんなことをだれが予期しようぞと源氏は歎息《たんそく》した。末摘花、若紫、こんな人たちはそれからどうなったか。
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(訳注) この巻は「若紫」の巻と同年の一月から始まっている。
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底本:「全訳源氏物語 上巻」角川文庫、角川書店
1971(昭和46)年8月10日改版初版発行
1994(平成6)年12月20日56版発行
※このファイルは、古典総合
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