のではなかったが、姿態の優美さは十分の魅力があった。常陸《ひたち》の宮の姫君はそれより品の悪いはずもない身分の人ではないか、そんなことを思うと上品であるということは身柄によらぬことがわかる。男に対する洗練された態度、正義の観念の強さ、ついには負けて退却をしたなどと源氏は何かのことにつけて空蝉が思い出された。
その年の暮れの押しつまったころに、源氏の御所の宿直所《とのいどころ》へ大輔《たゆう》の命婦《みょうぶ》が来た。源氏は髪を梳《す》かせたりする用事をさせるのには、恋愛関係などのない女で、しかも戯談《じょうだん》の言えるような女を選んで、この人などがよくその役に当たるのである。呼ばれない時でも大輔はそうした心安さからよく桐壺《きりつぼ》へ来た。
「変なことがあるのでございますがね。申し上げないでおりますのも意地が悪いようにとられることですし、困ってしまって上がったのでございます」
微笑《ほほえみ》を見せながらそのあとを大輔は言わない。
「なんだろう。私には何も隠すことなんかない君だと思っているのに」
「いいえ、私自身のことでございましたら、もったいないことですがあなた様に御相談に上
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