がって申し上げます。この話だけは困ってしまいました」
なお言おうとしないのを、源氏は例のようにこの女がまた思わせぶりを始めたと見ていた。
「常陸の宮から参ったのでございます」
こう言って命婦は手紙を出した。
「じゃ何も君が隠さねばならぬわけもないじゃないか」
こうは言ったが、受け取った源氏は当惑した。もう古くて厚ぼったくなった檀紙《だんし》に薫香《くんこう》のにおいだけはよくつけてあった。ともかくも手紙の体《てい》はなしているのである。歌もある。
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唐衣《からごろも》君が心のつらければ袂《たもと》はかくぞそぼちつつのみ
[#ここで字下げ終わり]
何のことかと思っていると、おおげさな包みの衣裳箱《いしょうばこ》を命婦は前へ出した。
「これがきまり悪くなくてきまりの悪いことってございませんでしょう。お正月のお召《めし》にというつもりでわざわざおつかわしになったようでございますから、お返しする勇気も私にございません。私の所へ置いておきましても先様の志を無視することになるでしょうから、とにかくお目にかけましてから処分をいたすことにしようと思うのでございます」
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