と歌い、また、「霰雪白紛紛《さんせつはくふんぷん》、幼者形不蔽《えうしやはかたちをおおはず》」と吟じていたが、白楽天のその詩の終わりの句に鼻のことが言ってあるのを思って源氏は微笑された。頭中将があの自分の新婦を見たらどんな批評をすることだろう、何の譬喩《ひゆ》を用いて言うだろう、自分の行動に目を離さない人であるから、そのうちこの関係に気がつくであろうと思うと源氏は救われがたい気がした。女王が普通の容貌《きりょう》の女であったら、源氏はいつでもその人から離れて行ってもよかったであろうが、醜い姿をはっきりと見た時から、かえってあわれむ心が強くなって、良人《おっと》らしく、物質的の補助などもよくしてやるようになった。黒貂《ふるき》の毛皮でない絹、綾《あや》、綿、老いた女たちの着料になる物、門番の老人に与える物までも贈ったのである。こんなことは自尊心のある女には堪えがたいことに違いないが常陸《ひたち》の宮の女王はそれを素直に喜んで受けるのに源氏は安心して、せめてそうした世話をよくしてやりたいという気になり、生活費などものちには与えた。
灯影《ほかげ》で見た空蝉《うつせみ》の横顔が美しいも
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