はあまりにはしたないようではあるが、昔の小説にも女の着ている物のことは真先《まっさき》に語られるものであるから書いてもよいかと思う。桃色の変色してしまったのを重ねた上に、何色かの真黒《まっくろ》に見える袿《うちぎ》、黒貂《ふるき》の毛の香のする皮衣を着ていた。毛皮は古風な貴族らしい着用品ではあるが、若い女に似合うはずのものでなく、ただ目だって異様だった。しかしながらこの服装でなければ寒気が堪えられぬと思える顔であるのを源氏は気の毒に思って見た。何ともものが言えない。相手と同じように無言の人に自身までがなった気がしたが、この人が初めからものを言わなかったわけも明らかにしようとして何かと尋ねかけた。袖《そで》で深く口を被《おお》うているのもたまらなく野暮《やぼ》な形である。自然|肱《ひじ》が張られて練って歩く儀式官の袖が思われた。さすがに笑顔《えがお》になった女の顔は品も何もない醜さを現わしていた。源氏は長く見ていることがかわいそうになって、思ったよりも早く帰って行こうとした。
「どなたもお世話をする人のないあなたと知って結婚した私には何も御遠慮なんかなさらないで、必要なものがあったら言っ
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