てくださると私は満足しますよ。私を信じてくださらないから恨めしいのですよ」
などと、早く出て行く口実をさえ作って、
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朝日さす軒のたるひは解けながらなどかつららの結ぼほるらん
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と言ってみても、「むむ」と口の中で笑っただけで、返歌の出そうにない様子が気の毒なので、源氏はそこを出て行ってしまった。
中門の車寄せの所が曲がってよろよろになっていた。夜と朝とは荒廃の度が違って見えるものである、どこもかしこも目に見える物はみじめでたまらない姿ばかりであるのに、松の木へだけは暖かそうに雪が積もっていた。田舎《いなか》で見るような身にしむ景色《けしき》であることを源氏は感じながら、いつか品定めに葎《むぐら》の門の中ということを人が言ったが、これはそれに相当する家であろう。ほんとうにあの人たちの言ったように、こんな家に可憐《かれん》な恋人を置いて、いつもその人を思っていたらおもしろいことであろう、自分の、思ってならぬ人を思う苦しみはそれによって慰められるであろうがと思って、これは詩的な境遇にいながらなんらの男を引きつける力のない女であると断案を
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