。だれも人の来ることを思わない、まだ深夜にならぬ時刻に源氏はそっと行って、格子の間からのぞいて見た。けれど姫君はそんな所から見えるものでもなかった。几帳《きちょう》などは非常に古びた物であるが、昔作られたままに皆きちんとかかっていた。どこからか隙見《すきみ》ができるかと源氏は縁側をあちこちと歩いたが、隅《すみ》の部屋にだけいる人が見えた。四、五人の女房である。食事台、食器、これらは支那《しな》製のものであるが、古くきたなくなって見る影もない。女王の部屋から下げたそんなものを置いて、晩の食事をこの人たちはしているのである。皆寒そうであった。白い服の何ともいえないほど煤《すす》けてきたなくなった物の上に、堅気《かたぎ》らしく裳《も》の形をした物を後ろにくくりつけている。しかも古風に髪を櫛《くし》で後ろへ押えた額のかっこうなどを見ると、内教坊《ないきょうぼう》(宮中の神前奉仕の女房が音楽の練習をしている所)や内侍所《ないしどころ》ではこんなかっこうをした者がいると思えて源氏はおかしかった。こんなふうを人間に仕える女房もしているものとはこれまで源氏は知らなんだ。
「まあ寒い年。長生きをしている
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