てかわいそうであった。
「とても忙しいのだよ。恨むのは無理だ」
 歎息《たんそく》をして、それから、
「こちらがどう思っても感受性の乏しい人だからね。懲らそうとも思って」
 こう言って源氏は微笑を見せた。若い美しいこの源氏の顔を見ていると、命婦も自身までが笑顔《えがお》になっていく気がした。だれからも恋の恨みを負わされる青春を持っていらっしゃるのだ、女に同情が薄くて我儘《わがまま》をするのも道理なのだと思った。この行幸準備の用が少なくなってから時々源氏は常陸の宮へ通った。そのうち若紫を二条の院へ迎えたのであったから、源氏は小女王を愛することに没頭していて、六条の貴女に逢うことも少なくなっていた。人の所へ通って行くことは始終心にかけながらもおっくうにばかり思えた。
 常陸の女王のまだ顔も見せない深い羞恥《しゅうち》を取りのけてみようとも格別しないで時がたった。あるいは源氏がこの人を顕《あら》わに見た刹那《せつな》から好きになる可能性があるとも言えるのである。手探りに不審な点があるのか、この人の顔を一度だけ見たいと思うこともあったが、引っ込みのつかぬ幻滅を味わわされることも思うと不安だった
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