とこんな冬にも逢《あ》いますよ」
そう言って泣く者もある。
「宮様がおいでになった時代に、なぜ私は心細いお家《うち》だなどと思ったのだろう。その時よりもまたどれだけひどくなったかもしれないのに、やっぱり私らは我慢して御奉公している」
その女は両|袖《そで》をばたばたといわせて、今にも空中へ飛び上がってしまうように慄《ふる》えている。生活についての剥《む》き出しな、きまりの悪くなるような話ばかりするので、聞いていて恥ずかしくなった源氏は、そこから退《の》いて、今来たように格子をたたいたのであった。
「さあ、さあ」
などと言って、灯《ひ》を明るくして、格子を上げて源氏を迎えた。侍従は一方で斎院《さいいん》の女房を勤めていたからこのごろは来ていないのである。それがいないのでいっそうすべての調子が野暮《やぼ》らしかった。先刻老人たちの愁《うれ》えていた雪がますます大降りになってきた。すごい空の下を暴風が吹いて、灯の消えた時にも点《つ》け直そうとする者はない。某《なにがし》の院の物怪《もののけ》の出た夜が源氏に思い出されるのである。荒廃のしかたはそれに劣らない家であっても、室の狭いのと、人
前へ
次へ
全44ページ中27ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング