をそのままにして置かせて、随身を一人か二人仕度させておくようにしてくれ」
という命令を受けて惟光は立った。源氏はそののちもいろいろと思い悩んでいた。人の娘を盗み出した噂《うわさ》の立てられる不名誉も、もう少しあの人が大人で思い合った仲であればその犠牲も自分は払ってよいわけであるが、これはそうでもないのである。父宮に取りもどされる時の不体裁も考えてみる必要があると思ったが、その機会をはずすことはどうしても惜しいことであると考えて、翌朝は明け切らぬ間に出かけることにした。
夫人は昨夜の気持ちのままでまだ打ち解けてはいなかった。
「二条の院にぜひしなければならないことのあったのを私は思い出したから出かけます。用を済ませたらまた来ることにしましょう」
と源氏は不機嫌《ふきげん》な妻に告げて、寝室をそっと出たので、女房たちも知らなかった。自身の部屋になっているほうで直衣《のうし》などは着た。馬に乗せた惟光だけを付き添いにして源氏は大納言家へ来た。門をたたくと何の気なしに下男が門をあけた。車を静かに中へ引き込ませて、源氏の伴った惟光が妻戸をたたいて、しわぶきをすると、少納言が聞きつけて出て来
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