と言葉数も少なく言って、大納言家の女房たちは今日はゆっくりと話し相手になっていなかった。忙しそうに物を縫ったり、何かを仕度《したく》したりする様子がよくわかるので、惟光《これみつ》は帰って行った。源氏は左大臣家へ行っていたが、例の夫人は急に出て来て逢《あ》おうともしなかったのである。面倒《めんどう》な気がして、源氏は東琴《あずまごと》(和琴《わごん》に同じ)を手すさびに弾《ひ》いて、「常陸《ひたち》には田をこそ作れ、仇心《あだごころ》かぬとや君が山を越え、野を越え雨夜《あまよ》来ませる」という田舎《いなか》めいた歌詞を、優美な声で歌っていた。惟光が来たというので、源氏は居間へ呼んで様子を聞こうとした。惟光によって、女王が兵部卿《ひょうぶきょう》の宮邸へ移転する前夜であることを源氏は聞いた。源氏は残念な気がした。宮邸へ移ったあとで、そういう幼い人に結婚を申し込むということも物好きに思われることだろう。小さい人を一人盗んで行ったという批難を受けるほうがまだよい。確かに秘密の保ち得られる手段を取って二条の院へつれて来ようと源氏は決心した。
「明日夜明けにあすこへ行ってみよう。ここへ来た車
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