た。
「来ていらっしゃるのです」
と言うと、
「女王様はやすんでいらっしゃいます。どちらから、どうしてこんなにお早く」
と少納言が言う。源氏が人の所へ通って行った帰途だと解釈しているのである。
「宮様のほうへいらっしゃるそうですから、その前にちょっと一言お話をしておきたいと思って」
と源氏が言った。
「どんなことでございましょう。まあどんなに確かなお返辞がおできになりますことやら」
少納言は笑っていた。源氏が室内へはいって行こうとするので、この人は当惑したらしい。
「不行儀に女房たちがやすんでおりまして」
「まだ女王さんはお目ざめになっていないのでしょうね。私がお起こししましょう。もう朝霧がいっぱい降る時刻だのに、寝ているというのは」
と言いながら寝室へはいる源氏を少納言は止めることもできなかった。源氏は無心によく眠っていた姫君を抱き上げて目をさまさせた。女王は父宮がお迎えにおいでになったのだと、まだまったくさめない心では思っていた。髪を撫《な》でて直したりして、
「さあ、いらっしゃい。宮様のお使いになって私が来たのですよ」
と言う声を聞いた時に姫君は驚いて、恐ろしく思うふ
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