方が来ていらっしゃいますよ。宮様が来ていらっしゃるのでしょう」
と言ったので、起きて来て、
「少納言、直衣着た方どちら、宮様なの」
こう言いながら乳母《めのと》のそばへ寄って来た声がかわいかった。これは父宮ではなかったが、やはり深い愛を小女王に持つ源氏であったから、心がときめいた。
「こちらへいらっしゃい」
と言ったので、父宮でなく源氏の君であることを知った女王は、さすがにうっかりとしたことを言ってしまったと思うふうで、乳母のそばへ寄って、
「さあ行こう。私は眠いのだもの」
と言う。
「もうあなたは私に御遠慮などしないでもいいんですよ。私の膝《ひざ》の上へお寝《やす》みなさい」
と源氏が言った。
「お話しいたしましたとおりでございましょう。こんな赤様なのでございます」
乳母に源氏のほうへ押し寄せられて、女王はそのまま無心にすわっていた。源氏が御簾《みす》の下から手を入れて探ってみると柔らかい着物の上に、ふさふさとかかった端の厚い髪が手に触れて美しさが思いやられるのである。手をとらえると、父宮でもない男性の近づいてきたことが恐ろしくて、
「私、眠いと言っているのに」
と言っ
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