て手を引き入れようとするのについて源氏は御簾の中へはいって来た。
「もう私だけがあなたを愛する人なんですよ。私をお憎みになってはいけない」
 源氏はこう言っている。少納言が、
「よろしくございません。たいへんでございます。お話しになりましても何の効果《ききめ》もございませんでしょうのに」
 と困ったように言う。
「いくら何でも私はこの小さい女王さんを情人にしようとはしない。まあ私がどれほど誠実であるかを御覧なさい」
 外には霙《みぞれ》が降っていて凄《すご》い夜である。
「こんなに小人数でこの寂しい邸《やしき》にどうして住めるのですか」
 と言って源氏は泣いていた。捨てて帰って行けない気がするのであった。
「もう戸をおろしておしまいなさい。こわいような夜だから、私が宿直《とのい》の男になりましょう。女房方は皆|女王《にょおう》さんの室へ来ていらっしゃい」
 と言って、馴《な》れたことのように女王さんを帳台の中へ抱いてはいった。だれもだれも意外なことにあきれていた。乳母は心配をしながらも普通の闖入者《ちんにゅうしゃ》を扱うようにはできぬ相手に歎息《たんそく》をしながら控えていた。小女王は
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