りませんか、私が繰り返し繰り返しこれまで申し上げてあることをなぜ無視しようとなさるのですか。その幼稚な方を私が好きでたまらないのは、こればかりは前生《ぜんしょう》の縁に違いないと、それを私が客観的に見ても思われます。許してくだすって、この心持ちを直接女王さんに話させてくださいませんか。

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あしわかの浦にみるめは難《かた》くともこは立ちながら帰る波かは
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 私をお見くびりになってはいけません」
 源氏がこう言うと、
「それはもうほんとうにもったいなく思っているのでございます。

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寄る波の心も知らで和歌の浦に玉藻《たまも》なびかんほどぞ浮きたる
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 このことだけは御信用ができませんけれど」
 物|馴《な》れた少納言の応接のしように、源氏は何を言われても不快には思われなかった。「年を経てなど越えざらん逢坂《あふさか》の関」という古歌を口ずさんでいる源氏の美音に若い女房たちは酔ったような気持ちになっていた。女王は今夜もまた祖母を恋しがって泣いていた時に、遊び相手の童女が、
「直衣《のうし》を着た
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