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問題にしてくださいませんでしたあなた様に気おくれがいたしまして、思っておりますこともことごとくは言葉に現わせませんでした。こう申しますだけでも並み並みでない執心のほどをおくみ取りくださいましたらうれしいでしょう。
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 などと書いてあった。別に小さく結んだ手紙が入れてあって、

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「面《おも》かげは身をも離れず山ざくら心の限りとめてこしかど
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 どんな風が私の忘れることのできない花を吹くかもしれないと思うと気がかりです」
 内容はこうだった。源氏の字を美しく思ったことは別として、老人たちは手紙の包み方などにさえ感心していた。困ってしまう。こんな問題はどうお返事すればいいことかと尼君は当惑していた。
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あの時のお話は遠い未来のことでございましたから、ただ今何とも申し上げませんでもと存じておりましたのに、またお手紙で仰せになりましたので恐縮いたしております。まだ手習いの難波津《なにわづ》の歌さえも続けて書けない子供でございますから失礼をお許しくださいませ、それにいたしましても
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