の座にいた。就寝を促してみても聞かぬ人を置いて、歎息《たんそく》をしながら源氏は枕についていたというのも、夫人を動かすことにそう骨を折る気にはなれなかったのかもしれない。ただくたびれて眠いというふうを見せながらもいろいろな物思いをしていた。若草と祖母に歌われていた兵部卿の宮の小王女の登場する未来の舞台がしきりに思われる。年の不つりあいから先方の人たちが自分の提議を問題にしようとしなかったのも道理である。先方がそうでは積極的には出られない。しかし何らかの手段で自邸へ入れて、あの愛らしい人を物思いの慰めにながめていたい。兵部卿の宮は上品な艶《えん》なお顔ではあるがはなやかな美しさなどはおありにならないのに、どうして叔母《おば》君にそっくりなように見えたのだろう、宮と藤壺の宮とは同じお后《きさき》からお生まれになったからであろうか、などと考えるだけでもその子と恋人との縁故の深さがうれしくて、ぜひとも自分の希望は実現させないではならないものであると源氏は思った。
 源氏は翌日北山へ手紙を送った。僧都《そうず》へ書いたものにも女王《にょおう》の問題をほのめかして置かれたに違いない。尼君のには、

前へ 次へ
全68ページ中31ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング