ものを見せて、同棲《どうせい》の歳月は重なってもこの傾向がますます目だってくるばかりであると思うと苦しくて、
「時々は普通の夫婦らしくしてください。ずいぶん病気で苦しんだのですから、どうだったかというぐらいは問うてくだすっていいのに、あなたは問わない。今はじめてのことではないが私としては恨めしいことですよ」
 と言った。
「問われないのは恨めしいものでしょうか」
 こう言って横に源氏のほうを見た目つきは恥ずかしそうで、そして気高《けだか》い美が顔に備わっていた。
「たまに言ってくださることがそれだ。情けないじゃありませんか。訪うて行かぬなどという間柄は、私たちのような神聖な夫婦の間柄とは違うのですよ。そんなことといっしょにして言うものじゃありません。時がたてばたつほどあなたは私を露骨に軽蔑《けいべつ》するようになるから、こうすればあなたの心持ちが直るか、そうしたら効果《ききめ》があるだろうかと私はいろんな試みをしているのですよ。そうすればするほどあなたはよそよそしくなる。まあいい。長い命さえあればよくわかってもらえるでしょう」
 と言って源氏は寝室のほうへはいったが、夫人はそのままもと
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