感じである。
 源氏はすぐ隣の室でもあったからこの座敷の奥に立ててある二つの屏風《びょうぶ》の合わせ目を少し引きあけて、人を呼ぶために扇を鳴らした。先方は意外に思ったらしいが、無視しているように思わせたくないと思って、一人の女が膝行《いざり》寄って来た。襖子《からかみ》から少し遠いところで、
「不思議なこと、聞き違えかしら」
 と言うのを聞いて、源氏が、
「仏の導いてくださる道は暗いところもまちがいなく行きうるというのですから」
 という声の若々しい品のよさに、奥の女は答えることもできない気はしたが、
「何のお導きでございましょう、こちらでは何もわかっておりませんが」
 と言った。
「突然ものを言いかけて、失敬だとお思いになるのはごもっともですが、

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初草の若葉の上を見つるより旅寝の袖《そで》も露ぞ乾《かわ》かぬ
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 と申し上げてくださいませんか」
「そのようなお言葉を頂戴《ちょうだい》あそばす方がいらっしゃらないことはご存じのようですが、どなたに」
「そう申し上げるわけがあるのだとお思いになってください」
 源氏がこう言うので、女房は
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