奥へ行ってそう言った。
 まあ艶《えん》な方らしい御挨拶である、女王《にょおう》さんがもう少し大人になっているように、お客様は勘違いをしていられるのではないか、それにしても若草にたとえた言葉がどうして源氏の耳にはいったのであろうと思って、尼君は多少不安な気もするのである。しかし返歌のおそくなることだけは見苦しいと思って、

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「枕《まくら》結《ゆ》ふ今宵《こよひ》ばかりの露けさを深山《みやま》の苔《こけ》にくらべざらなん
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 とてもかわく間などはございませんのに」
 と返辞をさせた。
「こんなお取り次ぎによっての会談は私に経験のないことです。失礼ですが、今夜こちらで御厄介《ごやっかい》になりましたのを機会にまじめに御相談のしたいことがございます」
 と源氏が言う。
「何をまちがえて聞いていらっしゃるのだろう。源氏の君にものを言うような晴れがましいこと、私には何もお返辞なんかできるものではない」
 尼君はこう言っていた。
「それでも冷淡なお扱いをするとお思いになるでございましょうから」
 と言って、人々は尼君の出るのを勧めた。
「そうだね、
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