と相談をいたしましてお返辞をするといたしましょう」
 こんなふうにてきぱき言う人が僧形《そうぎょう》の厳《いか》めしい人であるだけ、若い源氏には恥ずかしくて、望んでいることをなお続けて言うことができなかった。
「阿弥陀《あみだ》様がいらっしゃる堂で用事のある時刻になりました。初夜の勤めがまだしてございません。済ませましてまた」
 こう言って僧都は御堂《みどう》のほうへ行った。
 病後の源氏は気分もすぐれなかった。雨がすこし降り冷ややかな山風が吹いてそのころから滝の音も強くなったように聞かれた。そしてやや眠そうな読経《どきょう》の声が絶え絶えに響いてくる、こうした山の夜はどんな人にも物悲しく寂しいものであるが、まして源氏はいろいろな思いに悩んでいて、眠ることはできないのであった。初夜だと言ったが実際はその時刻よりも更《ふ》けていた。奥のほうの室にいる人たちも起きたままでいるのが気配《けはい》で知れていた。静かにしようと気を配っているらしいが、数珠《じゅず》が脇息《きょうそく》に触れて鳴る音などがして、女の起居《たちい》の衣摺《きぬず》れもほのかになつかしい音に耳へ通ってくる。貴族的なよい
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