たのですね。山の上の聖人の所へ源氏の中将が瘧病《わらわやみ》のまじないにおいでになったという話を私は今はじめて聞いたのです。ずいぶん微行でいらっしゃったので私は知らないで、同じ山にいながら今まで伺候もしませんでした」
と僧都は言った。
「たいへん、こんな所をだれか御一行の人がのぞいたかもしれない」
尼君のこう言うのが聞こえて御簾《みす》はおろされた。
「世間で評判の源氏の君のお顔を、こんな機会に見せていただいたらどうですか、人間生活と絶縁している私らのような僧でも、あの方のお顔を拝見すると、世の中の歎《なげ》かわしいことなどは皆忘れることができて、長生きのできる気のするほどの美貌《びぼう》ですよ。私はこれからまず手紙で御挨拶《ごあいさつ》をすることにしましょう」
僧都がこの座敷を出て行く気配《けはい》がするので源氏も山上の寺へ帰った。源氏は思った。自分は可憐な人を発見することができた、だから自分といっしょに来ている若い連中は旅というものをしたがるのである、そこで意外な収穫を得るのだ、たまさかに京を出て来ただけでもこんな思いがけないことがあると、それで源氏はうれしかった。それにして
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