わった。尼君は女の子の髪をなでながら、
「梳《す》かせるのもうるさがるけれどよい髪だね。あなたがこんなふうにあまり子供らしいことで私は心配している。あなたの年になればもうこんなふうでない人もあるのに、亡《な》くなったお姫さんは十二でお父様に別れたのだけれど、もうその時には悲しみも何もよくわかる人になっていましたよ。私が死んでしまったあとであなたはどうなるのだろう」
あまりに泣くので隙見《すきみ》をしている源氏までも悲しくなった。子供心にもさすがにじっとしばらく尼君の顔をながめ入って、それからうつむいた。その時に額からこぼれかかった髪がつやつやと美しく見えた。
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生《お》ひ立たんありかも知らぬ若草をおくらす露ぞ消えんそらなき
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一人の中年の女房が感動したふうで泣きながら、
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初草の生ひ行く末も知らぬまにいかでか露の消えんとすらん
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と言った。この時に僧都《そうず》が向こうの座敷のほうから来た。
「この座敷はあまり開《あ》けひろげ過ぎています。今日に限ってこんなに端のほうにおいでになっ
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