ける

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安眠のできる夜がないのですから、夢が見られないわけです。
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 とあった。目もくらむほどの美しい字で書かれてある。涙で目が曇って、しまいには何も読めなくなって、苦しい思いの新しく加えられた運命を思い続けた。
 翌日源氏の所から小君《こぎみ》が召された。出かける時に小君は姉に返事をくれと言った。
「ああしたお手紙をいただくはずの人がありませんと申し上げればいい」
 と姉が言った。
「まちがわないように言っていらっしったのにそんなお返辞はできない」
 そう言うのから推《お》せば秘密はすっかり弟に打ち明けられたものらしい、こう思うと女は源氏が恨めしくてならない。
「そんなことを言うものじゃない。大人の言うようなことを子供が言ってはいけない。お断わりができなければお邸《やしき》へ行かなければいい」
 無理なことを言われて、弟は、
「呼びにおよこしになったのですもの、伺わないでは」
 と言って、そのまま行った。好色な紀伊守はこの継母が父の妻であることを惜しがって、取り入りたい心から小君にも優しくしてつれて歩きもするのだった。小君が来たというの
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