ておりまして何も詳しいことは存じません」
 と紀伊守《きいのかみ》は答えていた。
 紀伊守は五、六日してからその子供をつれて来た。整った顔というのではないが、艶《えん》な風采《ふうさい》を備えていて、貴族の子らしいところがあった。そばへ呼んで源氏は打ち解けて話してやった。子供心に美しい源氏の君の恩顧を受けうる人になれたことを喜んでいた。姉のことも詳しく源氏は聞いた。返辞のできることだけは返辞をして、つつしみ深くしている子供に、源氏は秘密を打ちあけにくかった。けれども上手《じょうず》に嘘《うそ》まじりに話して聞かせると、そんなことがあったのかと、子供心におぼろげにわかればわかるほど意外であったが、子供は深い穿鑿《せんさく》をしようともしない。
 源氏の手紙を弟が持って来た。女はあきれて涙さえもこぼれてきた。弟がどんな想像をするだろうと苦しんだが、さすがに手紙は読むつもりらしくて、きまりの悪いのを隠すように顔の上でひろげた。さっきからからだは横にしていたのである。手紙は長かった。終わりに、

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見し夢を逢《あ》ふ夜ありやと歎《なげ》く間に目さへあはでぞ頃《ころ》も経に
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