で源氏は居間へ呼んだ。
「昨日《きのう》も一日おまえを待っていたのに出て来なかったね。私だけがおまえを愛していても、おまえは私に冷淡なんだね」
 恨みを言われて、小君は顔を赤くしていた。
「返事はどこ」
 小君はありのままに告げるほかに術《すべ》はなかった。
「おまえは姉さんに無力なんだね、返事をくれないなんて」
 そう言ったあとで、また源氏から新しい手紙が小君に渡された。
「おまえは知らないだろうね、伊予の老人よりも私はさきに姉さんの恋人だったのだ。頸《くび》の細い貧弱な男だからといって、姉さんはあの不恰好《ぶかっこう》な老人を良人《おっと》に持って、今だって知らないなどと言って私を軽蔑《けいべつ》しているのだ。けれどもおまえは私の子になっておれ。姉さんがたよりにしている人はさきが短いよ」
 と源氏がでたらめを言うと、小君はそんなこともあったのか、済まないことをする姉さんだと思う様子をかわいく源氏は思った。小君は始終源氏のそばに置かれて、御所へもいっしょに連れられて行ったりした。源氏は自家の衣裳係《いしょうがかり》に命じて、小君の衣服を新調させたりして、言葉どおり親代わりらしく世話を
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