、それも姉の手だけでははかばかしく運ばないのでございましょう」
と紀伊守が説明した。
「あの子の姉さんが君の継母なんだね」
「そうでございます」
「似つかわしくないお母さんを持ったものだね。その人のことは陛下もお聞きになっていらっしって、宮仕えに出したいと衛門督が申していたが、その娘はどうなったのだろうって、いつかお言葉があった。人生はだれがどうなるかわからないものだね」
老成者らしい口ぶりである。
「不意にそうなったのでございます。まあ人というものは昔も今も意外なふうにも変わってゆくものですが、その中でも女の運命ほどはかないものはございません」
などと紀伊守は言っていた。
「伊予介は大事にするだろう。主君のように思うだろうな」
「さあ。まあ私生活の主君でございますかな。好色すぎると私はじめ兄弟はにがにがしがっております」
「だって君などのような当世男に伊予介は譲ってくれないだろう。あれはなかなか年は寄ってもりっぱな風采《ふうさい》を持っているのだからね」
などと話しながら、
「その人どちらにいるの」
「皆|下屋《しもや》のほうへやってしまったのですが、間にあいませんで一部分だ
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