と肉体との尠《すくな》からぬ苦痛を払います。人類が遠く釈迦《しゃか》や基督《キリスト》の時代から憧《あこが》れて来た、愛、正義、自由、平等を精神とする最高価値の新生に向って、大股《おおまた》に一つの飛躍を取ろうとするには、八百万人の死傷者と三千億円の戦費とを犠牲としてまだ足らず、更に思想的、経済的、政治的、社会的の猛烈な戦争と混乱との中に、劇甚な苦痛の試錬を受けねばならないのは理由のあることだと思います。
新しい浪曼主義の代表者であるウィルソン大統領の戦時中から今日に到るまでの度々の提議は、一語として新時代を指導する聖経風の金言でないものはありません。古《いにしえ》から大国の元首にしてウィルソンのように正大と高華《こうか》とを極めた提議を、ウィルソンだけの徳望と権威を持ちつつ世界に対して指導的に為し得た者があるでしょうか。私はウィルソンの人格の偉大であることを驚嘆しています。しかしそういう特別に飛び離れて偉大な人格が今日もなお世界に存在する如くに見え、大多数の人類がそういう偉大なと見える人格に由って音頭を取ってもらわねばならないという事実が、私の考察では、まだ世界の文化が非常に偏頗《
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