は配達させようなどと相談をしたりして居た。
 鏡子はもう幾|分《ふん》かの後《のち》に逼《せま》つた瑞木や花木や健《たかし》などとの会見が目に描かれて、泣きたいやうな気分になつたのを、紛《まぎら》すやうに。
『私は苦しいのでね、まだ顔を洗はないのですよ。』
 清に話しかけた。
『なあに、宜しう御座いますよ。』
『あなたの処《ところ》の薫《かほる》さんや千枝子さんはどうしていらつしつて。』
 鏡子は弟の子の事を今迄念頭に置かなかつたやうに思はれはしないかと、かう云つた後《あと》で少し顔を染めた。
『皆|壮健《たつしや》で居《を》ります。』
『大きくおなりでしたらうね。』
 鏡子自身がかう云つた言葉の態《わざ》とらしいのに満足が出来なかつた。
『私は千枝子さんが真実《ほんとう》に好きなんですよ。』
 と云つて見たがこれも木に竹を継いだやうで厭《いや》に思はれた。[#「。」は底本では「、」]良人《をつと》の外に言葉の通じぬ世界の生活に続いて、船の中で部屋|附《づき》のボオイや給仕女に物を云ふ以外に会話らしい会話もせず三十八日居た自分は当分普通の話にも間の抜けた事を云ふのであらうとこれなども味
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