て、それから畑尾は滿《みつる》に話しかけた。[#底本には「』」があるが除いた]
『五時。』
滿は元気よく云つた。
『五時、早いのだすなあ、外の坊ちやんやお嬢さんは新橋に来てはりますか。』
『晨《しん》と榮子《えいこ》は家《うち》に居る。』
『外の方は来てはるのだすやろ。』
『どうだか。』
と滿は小首《こくび》を傾《かし》げて云ふ。
『それは来てはりますとも。』
『さう、畑尾さん。』
滿は女の様な地《ぢ》の声で云つた。
『嬉しいでせう、坊ちやん。』
『ふん、母《かあ》さんは何処《どこ》に居るの、畑尾さん。』
と滿は心配さうに云つた。
『彼処《あすこ》においでです。』
と云つて、畑尾は二つ向ふの車を指差《ゆびざ》した。
『嬉しいなあ、畑さん。』
と滿は云つたが、其処《そこ》へ飛び込んで行《ゆ》かうともしないのである。
もう待草臥《まちくたび》れたと云ふやうに鏡子が目を閉《とぢ》て居る所へ其《その》人|等《ら》が入《はい》つて来て、汽車は直《す》ぐ動き出した。
『お早くから難有《ありがた》う御座いました。留守の子供達もいろいろお世話になりまして難有《ありがた》う御座いました。御
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