、第3水準1−90−51]《おとがひ》をべたりと襟に附けて、口笛を吹くやうな口をして吐息《といき》をした。お照が何《なに》と云つて慰めたものかと思つて居ると、俄に鏡子が、
『お照さん、そんなこと書いてあると憎まれるわ。』
 と云つた。併《しか》も少し高調子《たかでうし》であつたからお照は一寸《ちよつと》どきまぎした。
『さうでせうか。』
『はがして頂戴よ。畑尾さん、一寸《ちよいと》。』
 鏡子は縁側で滿と戯れて居た畑尾にも声をかけた。
『はい。』
 畑尾は直《す》ぐ鏡子の傍へ来た。
『あのう、清さんが心配してお逢ひ致さずとか書いて下すつたのですつて、けれど気の毒ですから私逢ひますわ。はがして来て頂戴よ。』
『さうですか。よろしうおます。』
 畑尾は立つて行つた。
『母《かあ》さん。僕達のおみやげは未《ま》だ来ないの。』
 と云つて健が来た。
『さあ、母《かあ》さんには分らないわ。どの荷物が先に来たのでせう。ねえ、お照さん。』
『三つ程だけですよ。お座敷に御座います。』
『後《あと》にしませう。皆来たら母《かあ》さんが出して上げます、直《す》ぐ。』
『つまんないの。』
 と云つて健が出て
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