銀短冊の箔《はく》の黒くなつたのが自身の上に来た凋落と同じ悲しいものと思つて鏡子は眺めて[#「眺めて」は底本では「眺めた」]居た。門の開《あ》く音がして、それから清と英也が庭口から廻つて来、畑尾と夏子が玄関から上《あが》つて来た。
 新聞記者の二三人が来て帰つた後《あと》で清とお照は相談をひそひそとして居たが、それから清はお照の持つて来た硯で、紙にお逢ひ致さず候《さふらふ》と書いた。それをお照が御飯粒で玄関の外へ張つた。これで大《だい》安心が出来たと云ふ風にお照は書斎へ行つた。
『姉《ねえ》さん、兄《にい》さんがさう云ひましてね、お逢ひ致さず候《さふらふ》と書いて玄関へ張つたのですよ。もう安心ですわ。あんなに詰めかけて来ると外《ほか》の者がひやひやするのですもの、巴里《パリイ》の兄《にい》さんもそれが案じられると云つて居《を》られるのですからね。』
『お照さん、巴里《パリイ》から私に手紙が来て居ないこと。』
『いいえ。』
『さうですか。』
『もう家《うち》へも参る頃なんですよ。』
『私は来て居るだらうとばかり思つてたわ。』
 鏡子は情《なさけ》なささうに云つて、※[#「月+齶のつくり」
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