我々の生活その物であるから。
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生活は季節を択ばずに発芽と開花と結実とを続けて行く。新しいことは真の生活の相《すがた》である。既に生活が不断に移って行く以上、私たちの倫理観もまた不断に移らねばならない。永久の真理というものを求めることの愚は琴柱《ことじ》に膠《にかわ》するにひとしい。永久の真理というような幽霊に信頼して一方のみを凝視している人が、刻々に推移する人生に対して理解もなく判断も出来ず、自分が人生の本流に乗ることを忘れ時代の競走に落伍していながら、かえって反感と否定とを以て世の澆季《ぎょうき》を罵《ののし》ったりもするのである。
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永久の真理のないと共に万人に共通する真理もないと私は想う。時間と空間を通じて固定した真理を求めることが実際の人生と相容れぬという不都合のあることに気が附かなかったために、過去の世界が煩悶《はんもん》と懐疑と沮喪《そそう》とに満たされ、在来の哲学と宗教と道徳とが現代に権威を失うに到ったのではないか。例えば「二夫に見《まみ》ゆべからず」という客観的の倫理を建ててこれを婦人の生命――生活の中枢――とすることを強《
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