つたやうに年《とし》と云ふものの目に映つて来ない幸福な気《き》に包まれた人達なのであらうと、さう云ふ人達に対しては思つて居るだけなのです。あの方《かた》が何年間かのあなたの心を蓄《たくは》へた行李《かうり》を開《あ》けて人に見せ、焼き尽しもした程|憎《にく》みを見せながらそのあなたの弟や妹に、実姉妹のやうな交際を猶《なほ》続けて来て居ることは三四年前まで私は知りませんでした。あなたは私よりもつと後《あと》までお知りにならなかつたかも知れません。知つておいでになつたかも知れない。或《あるひ》はまた西洋においでになる時にも門司《もじ》でお逢ひになつた妹さんの口から何事もあなたへ伝へられなかつたか熬mれません。私はお艶《つや》さんとあなたのお留守に一月《ひとつき》程一緒に居ました時、お艶《つや》さんは私を苦《くるし》めたいのでもなく、何《なに》の気なしによくあの方《かた》のことを賞《ほ》めてお聞かせになりました。烈《はげ》しいヒステリイの起つてゐる時などは、悲しい程にさうでした。あなたの兄上や嫂《あによめ》の君の信用の最も厚い婦人と云ふのはあの方《かた》であるとも聞きました。私が幾人も残して
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