》が悪いから厭だ、あの人ならとあの方《かた》のことをお云ひになつたのだと云ふこと、京の北山《きたやま》の林の中へ鉄砲を持つて入《はひ》つて、あの方《かた》と添はれない悲しみに死なうとなすつたこと、それから五六年もしてあなたとあの方《かた》が一緒になつて、女の赤さんを生んで、そしてその子が死んでからお別れになつた時、あの方《かた》は大きい柳行李《やなぎがうり》に充満《いつぱい》あつたあなたの文《ふみ》がらをあなたの先生の処《ところ》へ持つて行つて焼いたと云ふこと、こんなことでした。私が何故《なぜ》別れるやうになつたのでせうと云ひましたら、赤坊《あかんぼう》の死んだのが悪かつたのだとあなたは云つておいでになりました。年上の女と恋をするのはどんな気持なものかとも私がお尋ねしましたら、綺麗な人だつたせいか自分は年上とも思はなかつたとあなたは訳《わけ》なしに云つておいででした。よくあなたや私の知つた人が、年上の女を娶《めと》つたり、年下の男の処《ところ》へ行つたりするのを見て何故《なぜ》ああした気になれるだらうとあなたはよく不思議がつておいでになりました。私は何時《いつ》も昔のあなたがお思ひにな
前へ 次へ
全33ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング