にはもう白い毛が出来て居るでせう、お目の下の皮膚から紫色になつた血が透《す》いて見えるでせう。真実《ほんたう》にあなたはお可哀相《かあいさう》です。お可哀相《かあいさう》です。あの方《かた》のことをあなたが私へお話しになつたことは唯《たヾ》一度しかありません。結婚して一月《ひとつき》も経たない時分でした。つまりお互《たがひ》に自己の利益などは考へ合はなかつた時だつたのです。ですからあなたは虚心平気でいらつしつた。昔の恋人のためにしみじみとお話しなさいました。けれどその晩を私は一睡もようしないで明《あか》したことを覚えて居ます。

     二

 あの××県のあなたの兄様《にいさん》の拵《こしら》へておいでになる女学校を、神童時代の次の十八九のあなたが教えておいでになる時、其処《そこ》の舎監で、軍人の未亡人の切下げ髪の人とかが、毎夜毎夜提灯を点《とも》して遠いあなたの住居《すまゐ》を訪ねて来て、あなたを挑《いど》まうとしながら表面《うはべ》では学校のあの二人の才媛の何方《どちら》をあなたは未来の妻にしたいと思ふかなどと云ふ話ばかりをして居たと云ふこと、あなたは第一の才媛は容貌《きりやう
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