るとか、家宅捜索を受けたとか、度々《たび/\》米何《こめなに》の名は新聞に伝へられましたから、そんな意味に於《おい》ての名はある人なのでせう。

     十

 光《ひかる》はどう大人にして好《い》いのでせう。親は二人あると思つてもこのことは考へなければならないのです。翅《はね》を持たないだけの天使は人間界の罪悪を知りもしなければ、それに抵抗する準備もありません。私は心細くて心細くてなりません。光《ひかる》はまだ子は母より生れるものとより他《た》を知りません。同じ家に居るからと云つて子に父の遺伝があるなどヽ云ふことは不思議なことではないかと、この間も茂《しげる》に語つて居るのを聞きました。それは結婚と云ふことがあるからであらうと思ふがと、斟酌《しんしやく》をして居るやうな返事のしかたを弟はして居ました。茂《しげる》の懐疑は光《ひかる》のそれに比べられない程に根底が出来て居るらしいのです。弟は両親が兄に対する細心な心遣ひを知つて居ますから、自分は自分、兄は兄として別々にして置かうと思つて居るらしいのです。光《ひかる》はそんなのですから、荒々しくて優しい趣味の乏しく思はれるやうな男の友よ
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