ろ》へ行《ゆ》け行《ゆ》けと云つてはその一番可愛い佐保子《さほこ》の頭をお打《うち》になる音を私にお聞かせになりました。そして私の居ない処《ところ》ではあの大きな佐保子《さほこ》に出ないあの方《かた》の乳を吸はせたりもなさるのでした。佐保子《さほこ》が私を敵視するやうになり、この間まで僕婢《ぼくひ》のやうであつた兄弟達が物とも思はなくなつたのに、憤《いきどほ》つてます/\横道へ捩《ねじ》れて行つたのも、その時には是非もないことだつたのです。
八
光《ひかる》を見てお艶《つや》さんが母と叔母の前で陰陽《かげひなた》をすると云つて罵しつておいでになつた日には、私は思はずヒステリーに感染した恥《はづ》かしい真似をしました。雨の中へ重い光《ひかる》を抱いて出まして、叔母さんが恐《こは》いから逃げて行《ゆ》きませうなどと云ひました。私を介抱して下すつたのは春夫さんと菽泉《しゆくせん》さんでした。そのお二人がお濡《ぬら》しになつた靴足袋《くつたび》を乾かしてお返しする時にお艶《つや》さんのなすつた丁寧な挨拶を書斎に居て聞きながら、私は病《やまひ》の本家が自分になつたと思つて苦笑しま
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