の人等には曖昧なことを云つて口を閉《とざ》させました。けれども四つ五つの話から見たくない全体も目に描かれて、悲しいことは同じだけの悲しみを私にさせます。私は留守中のお艶《つや》さんのなすつた総《すべ》てを決して否定しては居ません。唯《た》だあの人には父に似た愛はあつても母らしい愛に似たものもなかつたのが子供等の不幸だつたのです。巴里《パリー》の下宿で毎日帰りたいと泣くやうになりましたのは、子供等の心が私に通じたのであると、私はこれまでの経験の中でこのことだけを神秘的なことと思つて居ます。お艶《つや》さんがお去りになつた翌日、光《ひかる》が朝のお膳に向ひながらぼんやりとして居ますのを、どうしたかと聞きますと、××の育児園の生徒は可哀相《かあいさう》だ、今日《けふ》からは僕達のやうに叔母さんから苛《いぢ》められるだらうからと云ふのです。私は顔を覆ふて泣きました。でも母様《かあさん》が生き返つて来たから好かつたではないかと私は云つて慰めました。生き返ることの出来ない処《ところ》にそれが行つて居たのでしたらどうでせう。里から取り返されて、母《かあ》さんなんか厭だよと口癖に云つて居ました佐保子《
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