心はだんだんその美に引き入れられながら、何と云ふ綺麗な子であらう、私はこんな美しい物を見たことがない、生きて居た日にはもとより、天上の果てから地の底までも見ようと思つて歩いている今でさへも見ることのない美しさであると思ふのです。私は渋谷の丘の上の家で、初めて自分の分身として光《ひかる》を見た時の満足にも劣らない満足さを感じるのですが、やはりあの時のやうに目を開《あ》いて居ない、真紅《まつか》な唇は柔かく閉《とざ》されて鼻の側面が少女《をとめ》のやうである、この子を被《おほ》ふのには黄八丈《きはちぢやう》の蒲団でも縮緬《ちりめん》でもまだ足るものとは思はないのに、余りに哀れな更紗《さらさ》蒲団であるなどヽ思ふのです。白い掛襟の綻《ほころ》びの繕はれてないのも口惜《くや》しいことに思はれるのです。光《ひかる》の枕許《まくらもと》には大きいリボンを掛けた女の子を色鉛筆で描《か》いた絵葉書が作られてあるのです。
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瑞樹《みづき》ちやんは昨日《きのふ》も今日《けふ》も花樹《はなき》ちやんに逢ひたいとばかり云つて泣いて居ます。花樹《はなき》さんがこの絵のやうな大きいお嬢さんに
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