なる時分には、兄《にい》さんも大きくなつて居て一人で汽車に乗つて迎へに行つて上げますよ。兄《にい》さんの上げた林檎は汽車の中で食べましたか。
[#ここで字下げ終わり]
などヽ仮名で書いてあるのです。表の宛名はまだ書いてありません。
私はあなたの蚊帳《かや》の中へもすつと入《はひ》りました。三郎の寝床がなくなつてからのあなたの蚊帳《かや》の中の様子は海の中に唯《たヾ》一つある島のやうであると思つて、この前と同じやうな淋しさを私が感じると云ふのです。此処《ここ》の電気灯も十燭光位が点《つ》いて居るのです。私は三度程ぐるぐるとお床《とこ》を廻つてから恥《はづか》しいものですから背中向きにあなたの枕許《まくらもと》へ坐るのです。亡霊になつてからまだあなたのお顔だけはしみじみと見たことが初めの一度きりしかないのです。そしてまたこれが出してあると私は思ふのです。それは(実際はそんな物をお持ちになりませんけれど、)私から昔あなたへお上げした手紙の一部である五六通が一束《ひとたば》になつた物なのです。亡霊は出て来る度に、これを読んで寝ようとお思ひになつてあなたが二階から態々《わざ/\[#底本では「
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