硝子《ガラス》の箱に入《はひ》つた新しい玩具《おもちや》が置いてあるのです。花樹《はなき》もこれと同じのをお父様《とうさん》に買つて頂いて行つたのであらうと私は思ふのです。蒲団から出して居る瑞樹《みづき》の手の掌《てのひら》には緋縮緬《ひぢりめん》のお手玉が二つレつて居るのです。私が五つ拵《こしら》へて遣つて置いたのを、花樹《はなき》に三つ持たせて遣《や》つたのであらうと私は点頭《うなづ》くと云ふのです。大胆な茂《しげる》の顔にも少し痩《やせ》が見えて来たと哀れに思ひながら見て、私は一番端に寝た光《ひかる》の寝床へ行《ゆ》くのです。苦しい夢でも見て居るやうに、光《ひかる》の眉の間には大人のやうな皺が現はれたり消えたりするのです。私は物が言ひたいと長男の胸を抱いて悲しがるのです。
「光《ひかる》さん。」
 とだけでいヽ、唯《た》だそれだけでいヽ、もう永劫にこの子等を見に来られないことになつてもいヽ、今夜の今、
「光《ひかる》さん。」
 と云つて、この子を眠《ねむり》から醒《さま》させたいと遣瀬なく思ふのです。

     五

 そのうち光《ひかる》がのんびりした寝顔になるのを見て、私の
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