へ坐ります。大人ならば到底眠れないだけの悲痛な音《おと》がこの子の心臓に鳴つて居る筈《はず》である、どんなに瑞樹《みづき》さんは悲しいだらう、双生児《ふたご》と云ふものは普通人の想像の出来ない愛情を持ち合つて居るもので、まだ生れて四五月目から泣いて居る時でも双方の顔が目に映ると笑顔を見せあつたあなた達ですね、けれどあなたの方《はう》が幾分か両親に大事がられたので、妹になつては居るのだけれど姉のやうな心持で双生児《ふたご》の一人を庇《かば》ふことを何時《いつ》も何時《いつ》も忘れませんでしたね、大抵の病気は二人が一緒にしましたね、さうさう下向《したむき》に寝返《ねがへ》りを仕初めたのも這ひ出したのも一緒の日からでしたね、牛乳を飲む時には教へられないのに瓶を持ち合つて上げましたね、あなた方《がた》はね、世間の双生児《ふたご》には珍《めづ》らしい一つの胞衣《えな》に包まれて居たのでしたよ、などとこんな話を口の中でした瑞樹《みづき》の顔を覗《のぞ》かうとするのでしたが、赤いメリンスの蒲団に引き入れた顔は上を向き相《さう》にもないのです。泣きながら寝入つたことがよく解《わか》るのです。枕の前には
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