す。併《しか》し階下《した》へ降りるには其処《そこ》を通つて梯子口へ出なければならないと思つて、また自分は亡霊であるから梯子段などは要らないと非常に得意な気分になつて、階下《した》へすつと抜けて入《はひ》るのです。
子供の寝部屋には以前の二燭光よりは余程明るい電気灯が点《つ》けられてあるのです。子供は淋しがらせたくないあなたの心持を私は嬉しく思ふのです。処《ところ》でね、蚊帳《かや》の中には寝床が三つよりない、光《ひかる》と茂《しげる》と、それから女の子が一人より居ません。亡霊の胸は轟《とヾろ》きます。どうしても三つよりない。然《しか》も一つの寝床には確かに一人づヽより寝て居ません。寝て居る方《はう》は瑞樹《みづき》なのであらう、居なくなつたのは花樹《はなき》であらう、花樹《はなき》は美濃《みの》の妹が来て伴《つ》れて行つたのであらうと私は直《す》ぐそれだけのことを直覚で知ると云ふのです。三郎が京の茅野《ちの》さんの処《ところ》へ行つてからもう十五日になる、花樹《はなき》は何時《いつ》行つたのであらうなどヽ考へながら私は引き離された双生児《ふたご》の瑞樹《みづき》の枕許《まくらもと》
前へ
次へ
全33ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング